整備新幹線が開業すると、地方の在来線は第三セクター鉄道に転換されることがよくあります。そして、その第三セクター鉄道は、乗客の少なさに苦慮し、経営が厳しいところが多々あります。
今回紹介する駅は、並行在来線にも新幹線にも駅があるところです。この駅が特徴的なのは、新幹線駅よりも、第三セクター鉄道の方が乗客が多い。ということです。この駅を訪ねてみて、様子をレポートします。
第三セクター鉄道の方が新幹線より乗客が多い駅
岩手県、東北新幹線のいわて沼宮内駅。岩手県岩手郡岩手町に所在しています。であれば「岩手駅」で良いではないか、と思いますが、旧来からある東北本線の駅名が「沼宮内」だったので、そこにひらがなで「いわて」をつけました。昭和30年の市町村合併までは、沼宮内町という名前でしたので、駅名としては特に違和感のないものです。ちなみに、岩手郡は盛岡市や八幡平市の領域まで広がるかなり大きな郡です。
そして、この駅は東北本線を転換した、並行在来線のいわて銀河鉄道(IGR)との乗り換え駅です。

目の前には岩手町の市街地が広がります。といっても、稠密。というわけではなく、まばらに家屋が建っています。
この駅に停まる新幹線は片道8本で、北海道新幹線奥津軽いまべつ駅に次いで2番目に少ない停車本数です。
ホームの案内表示。乗ってきた列車の次の列車は2時間後。

表示が変わって、19:49の次は3時間後で終電です。このように本数は少ないです。

ちなみに、新幹線駅としてのJR東日本の乗客は1日38人。乗降客数にすると76人。100人に満たない数です。一方のいわて銀河鉄道(IGR)の乗降客数は724人で10倍近くいます。流石に、10倍の違いは凄すぎます。全国で新幹線と並行在来線の駅が一緒のところは数多くありますが、10倍も乗降客数が違う、しかも新幹線側が少ないというのはここだけではないでしょうか。
参考までに、お隣の二戸駅は東北新幹線の乗降客数が1078人で、IGRの乗降客数は586人です。
なぜ、いわて沼宮内駅だけ、こんなことになっているのでしょうか?
並行在来線の駅を見てみる

こちらは、IGRいわて銀河鉄道の方の駅。左側の盛岡行きの表示は、30分ごとに列車が来ることを示しています。(右側はこの日、臨時で青森行きの快速が走っていました)
いわて沼宮内駅に停まる本数は、東北新幹線が1日8本に対して、IGRは23本。朝晩は1時間に2本。それ以外は1時間に1本停まる形です。
ちなみに、所要時間は新幹線が12分でIGR34分。価格は新幹線が1470円。IGRは950円です。
新幹線より第三セクターの方が倍以上かかるのは確かですが、その差は20分強。価格は500円の違い。
県庁所在地の盛岡まで、電車で30分であるならば、500円安いIGRに僕でも乗りますね。しかも、停まる本数が違いすぎる。。。これでは、新幹線が来るのを待つ間、やってきたIGRの列車に乗れば、新幹線よりも早く盛岡駅に到着しそうなシチュエーションが多発しそうです。しかも、IGRの方が圧倒的に安いですし。

在来線のホームに行ったら、IGRではなく、お隣の青い森鉄道の電車がやってきました。
この日は、青森までの快速が運転されていました。

なぜ乗客が少ないのか?
駅の外に出てみます。こちらは東口です。
はっきり言って、駐車場しかありません。

東側はすぐに森になっています。また、さらに東、三陸に行く道路はこの辺りにはありません。三陸の久慈市に行くには、お隣の二戸駅からJRバス東北のバス(高速バスではありません)に乗ることになります。
こちらは西口です。メインはこちらです。

目の前の施設は、岩手町の岩手広域交流センター「プラザあい」。多目的ホールや会議室なんかがありました。右側の跨線橋はIGRのホームに行くもの。新幹線開業前からあると思います。
目の前に、タクシーが1台だけ停まっていますが、こんなものです。ここから広域に移動する需要はありません。西側には八幡平や安比高原がありますが、盛岡市街から高速道路が直結しているので、ここいわて沼宮内からバスや車で行くニーズはありません。
つまり、このいわて沼宮内駅は、広域から集客するのが厳しい条件下にあります。近頃開業した新幹線駅の中には巨大な駐車場を駅前に備えていることがありますが、この駅は昔ながらの街の中にあるため、駐車場はあるものの、それほどの台数を停められません。
広域流動が少ないということは、新幹線に乗る人が少ないということにつながります。
タクシーは一台しかいませんでしたが、需要はこの程度だと思います。というのも、いわて沼宮内駅がある岩手町の人口は1万1千人しかいません。
なぜいわて沼宮内駅はできたのか?
当然ですが、東北新幹線はいわて沼宮内を目指して建設されたものではありません。そもそも、盛岡から青森までのルートは、今の八戸ルートと、東北自動車道沿いの弘前経由ルートの2つが考えられていました。
どちらも距離はさして変わらないのですが、弘前経由の方が若干勾配がきついのと、北海道に行くには青森でスイッチバックしなければならないという理由で、八戸経由になります。
まあ、東北本線経由なので、妥当なところだと思いますが。。
国鉄時代に八戸経由での建設が決定されますが、国鉄の赤字が理由で、盛岡かから先の建設は凍結されたままJRになりました。

JRになった後、整備新幹線の建設は、公共事業になりました。そして、建設費を削減することになり、1988年にミニ新幹線構想が出てきました。
この際、東北新幹線では、沼宮内-八戸間がフル規格。前後の盛岡-沼宮内と八戸-青森が在来線を改軌して新幹線を走らせるミニ新幹線にすることとなりました。沼宮内から北は奥中山の峠越えがあり、この部分はトンネルを掘ることにより、路線改良をしようということになりましたが、前後の区間は東北本線の複線電化の際に線路改良がされている区間がいくつもあるので線形がよく、在来線を利用しようということになりました。
この際、フル規格と在来線との接続点としていわて沼宮内駅ができることになりました。
その後、盛岡から沼宮内までもフル規格新幹線になることが決まり建設が始まりましたが、沼宮内駅設置は変わらず、そのまま駅ができました。
確かに、盛岡から八戸までに駅を設けるとすると、沼宮内と二戸に設置するのが、距離的にも妥当なところです。
いわて沼宮内駅の今後
いわて沼宮内駅ができて20年。乗客は増えるどころか、減少傾向です。
並行在来線のIGRはさまざまな施策により、乗客を着実に獲得しています。
この駅を活性化させるには、盛岡よりも遠方から集客する必要がありますが、特に観光に来るようなところもなく、なかなか難しいです。
せっかく作ったので、できればもっと賑わいを!と思いますが、このまま低位安定ということになるかと思います。
なんでこんなところに新幹線の駅ができたの?というところは世の中にいくつもあると思います。今後、いくつかの駅を紹介していきたいと思います。
【参考】
鉄道ジャーナル社「整備新幹線」
岩手県岩手郡岩手町ホームページ