モノレールでも新交通システムでもない乗り物はなぜできたのか?長崎稲佐山スロープカー乗車体験記

モノレール・新交通システム

みなさんはこの乗り物を見たことがありますか?モノレールみたいな、新交通システムみたいな感じがしますが、法律上は「エレベーター」扱いで鉄道ではありません。遊園地の乗り物ではありません。

ここは長崎市の稲佐山にある「長崎稲佐山スロープカー」です。

長崎稲佐山スロープカーとは何か?

スロープカーがすごいのは、モノレールや新交通システム、更には普通の鉄道とは異なり、急勾配でも車体が水平になっていて傾かないところです。

スロープカーは稲佐山中腹駐車場から山頂までを結んでいます。

スロープカーの駅は2カ所で中腹駅と山頂駅があります。ロープウェイとかケーブルカーと同じようなものです。往復で大人500円、片道で300円。子供料金以外に中高生料金があるのが特徴です。

僕は往復の切符を買って乗り込みました。

スロープカーの営業時間は午前9時から午後10時。9:00~18:00 20分間隔、18:00~22:00 15分間隔です。

夜の方が本数が多いのは、稲佐山が夜景の名所だからです。日本三大夜景のうちの一つです(他は、北海道の函館山と神戸の摩耶山)。2012年には、モナコ、香港と並び、世界新三大夜景として認定されました。

中腹には大きな駐車場があり、車で来た人が山頂に登るために、このスロープカーがあります。

スロープカーに乗ってみる!

こちらが山頂駅です。

発車前まで扉の手前で待ちます。無闇にホームに立ち入れないようになっています。

扉が開いて入っていきます。入り口はモノレールとか新交通システムとかと一緒です。

スロープカーの内装は森をイメージして樹木の形の支柱を設置しています。普通の鉄道車両とはずいぶん違います。

山頂駅のプラットホームは7mも空中に張り出しています。「山頂駅舎は市街地からも見える。山の稜線に沿うように高さを抑え、ランドマークとなるように工夫した」と長崎市では言っています。

今停車中ですが、非常に見晴らしが良いです。

停車中のスロープカー。すでに外に飛び出している感覚になる

反対側のスロープカーがきました。車両は2両連結されています。

車体のデザインは、長崎ロープウェイと同じく高級車フェラーリなどを手掛けた工業デザイナー奥山清行氏が率いるKENOKUYAMADESIGNが手掛けています。

車体の外観は自然との調和を重視して黒を基調とし、稲佐山の木々が映り込むように鏡面塗装を施しています。

定員は1両あたり40人乗車ができて、2両編成なので、最大80人乗車できます。1両あたり幅2.5メートル、長さ6.25メートル、高さ2.2メートル、重さ9.5トンあるとのことで、当然ですが通常の鉄道車両よりも軽いです。

最大勾配は21度。384パーミル。ということで通常の鉄道ではあり得ません。モノレールとか新交通システムとかでも無理です。ケーブルカーとかロープウェイが通常は対応する斜度です。

走行レールは2つあって、昼間は1レーンのみ使いますが、本数が多い夜間は2レーンを使います。毎日運行ですが、高圧電気点検のため年に1日休止するとのことです。

稲佐山にはスロープカー以外に長崎ロープウェイがあります。ロープウェイは麓から山頂を結んでいますが、スロープカーは中腹から山頂まで結んでいます。

なぜ、スロープカーを導入したのか?

スロープカーの前には、長崎スカイウェイというロープウェイが同じ区間を結んでいましたが、2006年12月に休止して、2008年に廃止されました。
長崎市は代替交通手段を検討したところ、道路の拡幅は工事が長期間に及ぶ点が、動く歩道は工事費がかさむ点がそれぞれ懸念されたため、「スロープカー」を導入することにしました。
長崎市は約500mある中腹駅から山頂駅までのルートを尾根上に設定しました。これは、尾根には既に遊歩道があり、施工時に木を極力切らずに済むからです。
市はスロープカーが走るレールや支柱、駅舎など、車両デザイン以外の設計を一括で発注しました。これはデザインコンセプトや景観を統一するため。周辺の公園とともに17年に完成した出島表門(おもてもん)橋でも採用した手法です。
一連の設計業務はトーニチコンサルタントがプロポーザル方式で受託しました。

「森のカーペットの上を滑るように進む。用事もないのに乗りたくなるような乗り物を目指した」とのことです。

途中、東京五輪・パラリンピックに伴う建設ラッシュで、ビルや橋などの建設に使う「高力ボルト」が全国的に不足したため、2019年7月開業の予定が半年延期されて、2020年1月31日開業しました。総事業費:20億4000万円かかりました。

スロープカーの仕組みはどのようなものか?

スロープカーは、傾斜地を⾛る株式会社嘉穂製作所の斜⾯⾛⾏モノレールです。ラック&ピニオン駆動方式で最大勾配50°の急傾斜を走行できるということです。

写真にあるギザギザに車体の車輪の一部を引っ掛けて勾配を上りくだりします。この仕掛けによって、急勾配に対応しています。しかも、勾配が変わる地点で駆動台車とキャビンとの間にある油圧シリンダーを作動させ、キャビンの床を水平に保っているので、勾配が変化しても床面は常に水平のまま走行が出来るのが特徴です。

運転装置は、エレベータと同様、ボタン一つで自動走行しますので運転士の必要がありません。よって、この乗り物は鉄道扱いとはならず、エレベータと同じ扱いになっています。

車両は、完全オーダーメイドです。

スロープカーを製造している嘉穂製作所の本社は、福岡県飯塚市にある日鉄嘉穂炭鉱の跡地にあリマス。

1969年の炭鉱閉山後、炭鉱機械を整備製造する工作部門が独立する形で1970年に嘉穂製作所は設立されました。当初、トロッコなど採炭現場で培った技術を生かし、工事資材を運ぶモノレールやエレベーターを手がけたそこから「生活の足」も担おうと研究を進め、1982年にスロープカーを発売しました。

東京都北区の飛鳥山にもあって、飛鳥山は16人乗りです。「アスカルゴ」という名前で運転しています。東京にお住まいの方の中には乗られたことがある方もいらっしゃると思います。ちなみに、アスカルゴは無料で乗車できます。
それ以外に福岡県の英彦山や北九州の皿倉山などにもあります。観光としては、2018年平昌五輪のスキージャンプ会場でも採用されました。

車両の累計販売台数は国内で約600台、韓国で約120台に上る。とのことです。

目の前が終点の中腹駅です。

距離は520mを8分かけて走るということでしたが、手元の時計で測ったら6分半で到着しました。

乗った感想ですが、騒音もなく、揺れもなく、非常にスムーズです。ですが、かなりのんびりとした走りです。のんびりしていますが、観光用に景色を眺めながら移動するには良い乗り物だと感じました。

皆さんも、長崎に行く機会があれば、是非乗ってみてください。絶景を楽しめるとともに、今までにない乗り物体験ができると思います。

【参考】
株式会社嘉穂製作所ホームページ
長崎稲佐山スロープカーホームページ